気候変動や環境破壊といったグローバルな課題に対し、さまざまな業界でサステナビリティ(持続可能性)への取り組みが加速しています。そんな中、華やかな印象のあるエンターテインメント業界もまた、その舞台裏では着実に“地球にやさしい選択”が広がっています。
この記事では、舞台・映画・音楽・イベントなど、多様なエンタメ領域において注目されている環境配慮の取り組みを、具体的な事例とともに紹介します。
サステナビリティとは?エンタメ業界に求められる視点
「サステナビリティ」とは、「今を生きる私たちのニーズを満たしつつ、未来世代のニーズをも損なわないようにする」という考え方です。環境・経済・社会のバランスを重視し、長期的な視野で物事を捉える姿勢が求められます。
エンタメ業界では、以下のような課題が指摘されてきました:
- 公演やイベントでの大量の資材廃棄(舞台装置・衣装・チラシなど)
- 大量動員・遠征に伴うCO₂排出(交通・照明・空調など)
- 一次的な消費傾向(公演後の道具や資料の廃棄)
こうした現実を踏まえ、サステナブルな制作体制や運営方法が模索されてきました。
エンタメ業界における主な取り組み事例
以下は、エンタメ業界で行われている代表的なサステナビリティの取り組みをまとめたものです。
| 取り組み分野 | 主な内容 |
|---|---|
| 舞台装置・衣装の再利用 | 舞台美術や衣装を使い回すことで廃棄物を削減 |
| デジタル配信による紙媒体削減 | パンフレットやチケットをデジタル化 |
| エコ会場の利用 | 省エネ設計・太陽光発電などを導入した施設利用 |
| バーチャルライブ・イベントの開催 | 移動や交通コストの削減、CO₂排出低減 |
| グリーンエネルギーの導入 | イベント電源を再生可能エネルギーに置き換える |
1. 舞台装置や衣装のリユース化
演劇・ミュージカル・映画撮影などの現場では、セットや衣装の制作コストが高いだけでなく、公演後は廃棄されることも多く、環境負荷が問題視されてきました。
そこで、一度使用した美術セットや衣装を他公演と共有・保管する「サステナブル倉庫」の活用が進められています。たとえば、演劇の舞台背景を複数の劇団で再利用したり、衣装をアレンジして再登場させる取り組みです。
再利用によってコスト削減・資源節約が両立できる点が注目されています。
2. デジタル化による紙資源削減
イベントやライブでは、以前は紙のチラシ・パンフレット・チケットが当たり前でしたが、近年ではスマホでの閲覧や電子チケットが主流になりつつあります。
例えば、劇場では観劇時に配布していた「演目解説パンフレット」をWeb上で公開したり、映画館ではQRコードでアクセスできる「来場者限定コンテンツ」などを活用しています。これにより、大量の紙と印刷インクの使用が削減され、環境負荷も軽減されます。
3. 会場そのものを“エコ”に
エンタメイベントが行われる施設そのものの環境性能も、持続可能性に直結しています。最新のホールやスタジアムの中には、LED照明や自然換気システム、雨水利用設備などを導入した“エコ仕様”の会場もあります。
また、外部電源や電力会社をグリーンエネルギー(再生可能電力)に切り替える公演も増えており、環境への直接的な配慮が進んでいます。
4. バーチャル化による移動・資源の削減
コロナ禍をきっかけに広まった「オンラインライブ」「バーチャル公演」ですが、これはサステナビリティの観点でも非常に効果的です。
出演者・スタッフ・観客が現地に移動する必要がなくなることで、交通によるCO₂排出量を大幅に削減できます。また、物理的な装飾や配布物を必要としないため、資源の消費も少なく済みます。
たとえば、人気アーティストのライブをメタバース空間で行う試みは、環境面と経済面の両立に成功した例として注目されています。
5. 「グリーンイベント宣言」など業界全体の取り組み
音楽業界や劇場団体など、業界団体単位で環境宣言を行う動きも出てきています。日本でも、「コンサート会場でのごみ分別推進」「LEDライトの導入」「プラスチック製グッズの廃止」などを盛り込んだガイドラインが策定されています。
世界的にはイギリスの音楽フェス「Glastonbury Festival」が、太陽光エネルギーの導入やプラスチック製品の完全撤廃を実施し、サステナブルなイベント運営のロールモデルとなっています。
サステナビリティと経済性の両立は可能か?
一方で、サステナビリティの取り組みにはコストがかかるという課題もあります。再生可能エネルギーは一般電力より割高になることもあり、特に中小規模の制作団体にとっては負担が大きくなりがちです。
しかし、近年では「環境配慮をしている作品やアーティスト」への共感がチケット購買動機につながるケースもあり、サステナブルな姿勢自体がブランド価値となり得るようになってきました。
また、環境省や自治体が提供する補助金・助成金制度を活用することで、コストを抑えて導入できる可能性もあります。
エンタメだからこそ“伝えられる”力がある
最後に注目したいのが、エンタメ業界が持つ“発信力”です。ライブや舞台、映画などは単なる娯楽ではなく、社会的メッセージを届ける媒体でもあります。
たとえば、環境問題をテーマにしたミュージカルや、サステナビリティを扱った映画作品は、観客に行動変容を促すきっかけにもなります。エンタメを通して“楽しく学べる”“心が動く”体験を提供することが、サステナブルな社会への一歩になるのです。
まとめ:サステナブルなエンタメの未来
環境問題が深刻化する今、エンタメ業界が果たすべき役割はますます大きくなっています。舞台装置の再利用からバーチャルライブの活用まで、さまざまな現場で創意工夫がなされています。
サステナビリティは決して難しいことではありません。小さな一歩の積み重ねが、持続可能な未来への道をつくります。これからのエンタメは、感動を届けるだけでなく、地球への思いやりも発信していく時代なのです。

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